2026/03/10 21:06

●試作の山と、地獄のクリアランス調整

「外側も内側もこれ以上広げられないなら、極限までインナーマガジンに密着させるしかない」
そう決意したものの、そこからが本当の地獄の始まりでした。

インナーの複雑な突起を逃がすための窪みを作り、隙間なくフィットするように厚みを持たせる。
データを修正しては、テスト用の安価なPLA素材で印刷する。
……入らない。
もう一度データを修正して印刷する。
……今度はガタガタだ。
とにかく前進しない日々が続きました。
デスクの横には、失敗作の「箱バナナ」の山がどんどん積み上がっていきます。



心が折れそうになる度に、「テスト用のPLAの時点で安心できるくらい頑丈な構造を作れれば、本番用の最強素材なら絶対に壊れないマガジンになる!」と自分に言い聞かせ、ひたすらコンマ数ミリ単位の調整を進めていきました。
〈簡単に組込みが出来て、それでいてガッチリと密着する〉
インナーパーツと密着することによって一つの物体としてかたまりとなり、サバゲーでも安心して使える強度になる。
ガッチリ密着してるのに簡単に組み込める。
これはどうしてもこだわりたい部分であり、妥協するわけにはいきませんでした。
そのため1箇所ずつデータ修正をして、出力する。
ダメなら修正。満足いく結果が得られたら次の箇所に取り掛かる。
地道な作業ですが、着実に少しずつゴールに近づけるように作業をしていきました。

「内部のシビアな設計さえきっちり終わらせれば、あとは好きなだけ分厚くしたり、デザインで遊んだりできる。しんどいのは今だけだ!」

●テストモデル、ついに完成!

そして何十回目かの出力の後。
ついに、インナーマガジンが「スッ…」と入り、かつガッチリと密着する完璧なクリアランスに辿り着きました!
↑左右非対称のクリアランス構造(写真左・マガジン上部、写真右・マガジン下部 /分かりやすいように輪切り状にしてます)

最も苦労した内部設計が終われば、外装のデザインはこっちのものです。
厚みや干渉の制限を気にすることなく、タクティカルでモダンな外観をモデリングしていく作業は、それまでの苦労が嘘のように楽しい時間でした。

完成した外装デザインを、再びPLA素材でテスト出力。
結果は……一発で大成功!
インナーは完璧にフィットし、エアガン本体に挿すと「カチャッ!」とマガジンキャッチも掛かる。弾もしっかり撃てる!
正直、見た目や造形だけで言えば「これでもう完成でいいじゃん!」と思えるほどの出来栄えでした。


「でもコレ(PLA)は、あくまで観賞用で すぐ壊れるし、ツヤツヤ感がな…笑」
そして、いよいよここからが本番。
最強の工業用エンプラ素材「PAHT-CF(炭素繊維配合ナイロン)」での出力に挑みます。


●漆黒のスパゲッティと、数千円のゴミ

無事にテスト素材での造形も完了したので、いよいよ本番用の炭素繊維配合ナイロンをセットして出力に挑みます。
「いつも通りに造形開始、っと!」
期待を胸に数時間後、ワクワクしながらプリンターの扉を開けると……。

そこにあったのは、完成したMAG JACKETではなく、「漆黒のスパゲッティ」でした。
PAHT-CFは非常に反りやすい(熱収縮が大きい)素材のため、印刷の途中でプレートから剥がれてしまい、空中にフィラメントを射出し続けてグチャグチャの塊を生み出していたのです。

↑「ウソだろ……」収縮によって弾き飛ばされたMAG JACKETは画面の右下にチラっと映ってますw

気を取り直して、今度は剥がれにくいようにサポート材(支え)をつけて再挑戦。
……失敗!
「じゃあ、絶対に剥がれないようにプレートに専用の接着剤を塗りたくってやる!」
三度目の正直。数時間の祈りが通じ、ようやく印刷に成功しました!!

プリンターから取り出してみると……すごい。
PLAとは比べ物にならない圧倒的な硬さ。
そしてカーボンファイバー特有の、ザラザラとした深みのあるマットな質感。

最高です。


↑写真左・PAHT-CF(炭素繊維配合ナイロン)と写真右・PLAとの比較
「黒さ」が全然違う!ザラリとした質感も特徴的です。

「よっしゃ! さっそくインナーを入れて……」
……入らない。
「え?」
固定用のビス穴にも、ビスが通りません。
なんと、PAHT-CFの強烈な収縮率によって、肉眼では分からないレベルで全体が「小さく」縮んでしまっていたのです。
しかし、それは私がこだわった「内部構造」がかなりの精度で作られていたという証明でもありました。

とはいえ…
まるっと1本、見た目は完璧に出力できたのに、寸法が合わずに使い物にならない。
……すでにこの時点で、高価な本番用素材が「数千円分」ゴミになっています。
マジで泣きそうでした。笑

●苦労の末の、本当の「完成」

そこから、素材の収縮率を計算してスケールを微調整し、何度もテストを繰り返しました。
しかしここでもトラブルの連発です。

PAHT-CFは炭素繊維が素材の中に練り込まれているため、あの特徴的な質感になるのですが、、、
それゆえ素材を押し出すノズルが非常に目詰まりを起こしやすいのです。

↑目詰まりを起こし、素材がボソボソになって出てきてうまく積層できていない様子(このときは印刷しはじめたばかりだったので比較的被害が少なかったですが…)

↑強烈な収縮で「わずかに」プレートから浮いてしまい、積層がズレズレになってしまった様子(3本まとめての印刷がほとんど完了しかけていたのに…!!印刷開始から12時間くらいを費やしたところで発生したトラブルなので、心にキましたw)

そして……。
苦労の末、ようやく出力が終わり…。
インナーマガジンがスムーズに、そしてガッチリと密着。
ビスもしっかりと留まる。
MP5本体に挿し込み、マガジンキャッチが掛かる。
トリガーを引く。弾が出る。

そして肝心の耐久性はどうなのか。
コンクリの床に持てる限りの力で何度も投げつける。
体重100kgを超える知り合いに踏みつけてもらう。片足で乗ってもらう。
まったくビクともしない!
積層方向にマイナスドライバーを当てて、金槌でガンガン!と思い切りブッ叩く。
何回もブッ叩いてようやく穴が開きました。
↑印刷したばかりの製品を投げたり踏みつけたりブッ叩いたりするのは気が引けましたが、安心して使えるか確認するための大事な通過儀礼ですw
(画像だと見えにくいかもしれませんが、穴の開いている周辺にもマイナスドライバー+金槌で叩かれた痕が散見されます)

ようやく、本当にようやく、私が追い求めた理想の樹脂製マガジン『MAG JACKET』が完成した瞬間でした。

●「自分が欲しい」から、「あなたに届けたい」へ

完成したMAG JACKETを装着した次世代MP5を構えた瞬間、それまでの数え切れない失敗や、使い物にならなかったフィラメントへの未練は、すべて吹き飛びました。


ずっと夢見ていた「現代のタクティカルサブマシンガン」の完璧なシルエットが、ついに自分の手で現実のものになったのです。
しかも、ただの見た目だけのダミーではなく、サバゲーの過酷な環境にも耐えうる実用性と強靭さを伴って。

最初は、「自分が欲しいから」「理想のマガジンがないから」というだけの個人的な理由でスタートしたプロジェクトでした。
しかし、幾多のトラブルを乗り越えて完成したこのMAG JACKETを手にした時、ひとつの確信が生まれました。

「自分と同じように、次世代MP5のマガジンの選択肢にフラストレーションを抱えていた人たちが、絶対にいるはずだ。その人たちに、この感動と、一切の妥協を排したクオリティを届けたい!!」

こうして、3Dプリントの常識を覆す外装ドレスアップキット『MAG JACKET』、そして私のブランド『THE BLACK』は産声を上げました。

決して平坦ではなかった、終わりの見えないコンマ数ミリとの戦い。
長々とした開発ストーリーにお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

私が持てる情熱と執念のすべてを注ぎ込んだ、このMAG JACKETが、あなたの愛銃をより最高の一丁へと引き上げるマスターピースになれば、開発者としてこれほど嬉しいことはありません。

もし知り合いにも次世代のMP5を使っているかたが居れば
「なんかすげえマガジンがあるらしいよ」
ってTHE BLACKMAG JACKETを教えていただけたら幸いです。笑