2026/07/11 03:16
前回のストーリーはこちら⇒【MAG JACKET FOR KRISS VECTOR 開発ストーリー Vol.1】
《経験値と、PAHT-CFの壁》
UNLOCK TOOLが完成し、いよいよMAG JACKET本体の設計に入ります。
まず行うべきは、純正マガジンの徹底的な採寸です。
ノギスを手に取り、マガジンの各部寸法を測る。
その数値を、ひとつずつモデリングソフトへ入力していく。
この作業を進めながら、私はある変化に気づきました。

明らかに、MP5版のMAG JACKETを作っていた頃よりも、作業が速い。
そして、精度も上がっている。
採寸した数値を、どうデータへ落とし込むのか。
どの部分を基準にして形状を作るのか。
どこに余裕を持たせ、どこを詰めるべきなのか。
以前なら手探りだった判断に、迷いが少なくなっていました。
分かりやすい言葉で言えば、開発の工程そのものが「効率化」されていたのです。
MP5版のMAG JACKETを作ったあとも、私はさまざまなものを3Dプリンターで作り続けていました。
家で使う専用の石鹸置き。
棚のサイズに合わせた追加の専用の板。
ハチミツのボトルを逆さ向きに立てるための専用スタンド。
ラックに取り付ける専用フック。
それ以外にも様々なものを。
日常にある、小さな不便。
ほんの少しの使いにくさ。
そうした“小さなストレス”をひとつずつ解消するために、採寸し、設計し、印刷することを続けてきました。
その積み重ねが、確実に経験値として蓄積されている。
今回のVECTOR版MAG JACKETは、そのことを強く実感させてくれる開発でもありました。
そうこうしているうちに、純正インナーマガジンを収めるための、シンプルな箱状のアウターシェルが完成しました。
まずは外観を作り込む前に、インナーが正しく収まるか。
ロック位置やクリアランスに大きな問題がないか。
基本構造を確認するための試作です。
データ作成は、想像していたよりもスムーズに進みました。
出力した試作品には、もちろん細かな調整が必要でした。
しかし、大まかな形状はすでに成立しており、わずかな手直しで次の段階へ進める状態でした。
「これは、思ったより早く形になるかもしれない」
そう感じたのを覚えています。
今思えば、それは完全に油断でした。
基本構造が見えてきたところで、いよいよ外装デザインを作り込んでいきます。
ただの箱ではなく、KRISS VECTORの未来的なシルエットに合わせた、ポリマーマガジンらしい造形へ。
面の切り替え。
エッジの処理。
握ったときの質感。
装着時の存在感。
THE BLACKらしい“黒”を纏わせるために、外装としての表情を少しずつ与えていきます。
ここでも、MP5版を作っていた頃とは明らかに違いました。
必要な造形機能を選ぶまでの迷いが少ない。
形状を作る順番も、修正すべき箇所の見極めも早い。
以前なら何度も立ち止まっていた工程を、今回はかなりの速度で進めることができました。
そうして、MAG JACKET FOR KRISS VECTORの完全版データが完成しました。
いきなりPAHT-CF(炭素繊維配合ナイロン)で出力する前に、まずは安価なテスト素材で出力します。
結果は、良好でした。
インナーは収まり、形状も問題なし。
外観のバランスも悪くない。

「これはいける」
そう判断し、いよいよ本番素材であるPAHT-CFでの出力に移ります。
しかし、ここからが本当の壁でした。
PAHT-CFは、非常に優れた素材です。
高い剛性。
耐熱性。
耐湿性。
そして、独特の上質なマット質感。
THE BLACKが求めるMAG JACKETには欠かせない素材です。
しかし同時に、扱いは決して簡単ではありません。
PLAで問題なく入っていたインナーマガジンが、PAHT-CFで出力すると入らない。
原因は、熱収縮です。
もちろん、素材による収縮が起きることは分かっていました。
MP5版の開発でも、何度も向き合ってきた問題です。
それでも、実際に目の前でインナーが入らない試作品を見ると、やはり簡単には受け入れられません。
収縮率を見込み、寸法を調整して再出力する。
まだ入らない。
さらに調整する。
まだ渋い。
コンマ数ミリ単位で寸法を見直し、再び出力する。
少しずつ改善はしていきます。
しかし、試作を重ねるたびに、決して安価ではないPAHT-CFのフィラメントが確実に減っていきます。
必要な工程だと分かっていても、素材が減っていく様子を見るのは、なかなか心にくるものがありました。

それでも、ここを妥協するわけにはいきません。
MAG JACKETは、ただインナーが入れば良い製品ではありません。
マガジンキャッチが確実に掛かること。
本体へ自然に挿入できること。
給弾や発射に影響しないこと。
そして、繰り返し使っても信頼できること。
外装パーツでありながら、使用感を損なわないこと。
それが、今回のVECTOR版で特に重視した部分でした。
何度も調整を重ね、ようやくPAHT-CFでの基本形状が完成しました。
しかし、量産を考えると、まだ別の問題が残っていました。
ロック機構が掛かる穴。
マガジンキャッチがかかる部分。
こうした細かな開口部は、サポート材なしで印刷すると、わずかに形状が崩れることがあります。
いわゆる“ダレ”です。
一方で、サポート材を付ければ形状は安定します。
しかし、印刷時間は伸び、素材の使用量も増えます。
さらに、サポートを剥がした面が荒れやすく、出荷前の仕上げ作業にも時間がかかります。
削る。
整える。
確認する。
この工程が増えれば増えるほど、製品化にかかる時間は大きくなります。
そして、それ以上に問題なのは、手作業によるわずかな差異です。
少し削りすぎれば、ロックの掛かり方に影響する。
逆に残しすぎれば、マガジンキャッチが正しく掛からない可能性がある。
つまり、量産する上で必要なのは、綺麗に仕上げる技術だけではありません。
私がどんなコンディションで作業しても、毎回同じ状態に近づけられる「再現性」です。
そこで、ひとつの工夫を加えました。
詳細は製造上のノウハウとなるため伏せますが、造形時に発生する“ダレ”や、サポート材による面荒れを抑えるため、データ側に一時的な補助構造を組み込みました。
印刷中は形状を支え、印刷後には簡単に除去できる。
そして除去後の形状が安定しやすい。
この構造により、仕上げ作業の時間を大幅に減らすことができました。
ただ楽をするためではありません。
製品ごとのバラつきを抑え、安定した品質でお届けするための工夫です。
結果として、VECTOR版MAG JACKETは、MP5版に比べて出荷前の調整作業を大きく効率化することができました。
開発の途中で感じていた「経験値が上がっている」という感覚は、単なる気のせいではありませんでした。
採寸。
設計。
試作。
素材の収縮への対応。
量産時の仕上げ工程。
品質を安定させるための構造。
そのすべてに、MP5版で得た経験が活きていました。
そしてようやく、MAG JACKET FOR KRISS VECTORは完成形へ近づいていきます。
知人のKRISS VECTORに装着し、動作を確認する。
マガジンキャッチは、しっかり掛かる。
本体への挿入も問題ない。
給弾、発射にも影響はない。
そして何より、装着した姿が非常に美しい。

KRISS VECTORが持つ未来的で異質な存在感に、THE BLACKらしい黒の外装が重なる。
純正の印象を崩すのではなく、さらに研ぎ澄ませる。
その瞬間、ようやくこの製品の方向性が正しかったのだと確信しました。
さらに、UNLOCK TOOLによる換装作業も確認しました。
純正マガジンのロック機構を左右から同時に押し込み、インナーをスムーズに取り外す。
工具に慣れていない方でも、できるだけ迷わず換装できるようにする。
それは、今回の開発で最初に決めた重要な条件でした。
複数のKRISS VECTOR本体で装着と動作を確認し、問題がないことを確認。
こうして、MAG JACKET FOR KRISS VECTORは正式に製品化へ進むことになりました。
思えば、MP5版MAG JACKETの開発は、ほとんどすべてが手探りでした。
採寸の仕方。
3Dモデリングの考え方。
素材の選び方。
PAHT-CFという扱いの難しい素材との向き合い方。
そして、実際にサバゲーのフィールドで使われる装備として、どこまで強く、どこまで美しく、どこまで扱いやすく作り込むべきなのか。
そのひとつひとつを、失敗しながら学んできました。
今回のVECTOR版MAG JACKETは、その積み重ねの上に生まれた製品です。
ただ強いだけでは、THE BLACKの製品とは言えない。
ただ美しいだけでも、十分ではない。
そして、ただ取り付けられるだけでも、完成とは呼べない。
サバゲーの環境に耐える強度。
繰り返し使える剛性と堅牢性。
手に取った瞬間に感じられるPAHT-CF特有の上質な質感。
そして、工具に慣れていない方でもスムーズに換装できる扱いやすさ。
そのすべてを、ひとつの製品体験として成立させること。
それが、MAG JACKET FOR KRISS VECTORで目指したものでした。
KRISS VECTORは、もともと非常に完成度の高いデザインを持つエアガンです。
だからこそ、その印象を壊すのではなく、より深く、より鋭く、THE BLACKらしい黒で研ぎ澄ませることを意識しました。
純正の魅力を否定するのではなく、もうひとつの選択肢を提示する。
「この銃に、こんな外装があってもいい」
そう思っていただけるものになっていれば、開発者としてこれ以上嬉しいことはありません。
MAG JACKET FOR KRISS VECTORは、THE BLACKにとって2作目のMAG JACKETです。
MP5版で得た経験。
日々の製作で積み重ねた小さな工夫。
そして、実際に使う方の手元まで想像しながら設計するという考え方。
そのすべてを注ぎ込んだ、新たな“黒”です。

ここまで開発ストーリーをお読みいただき、誠にありがとうございました。
THE BLACKは、まだ始まったばかりの小さなブランドです。
しかし、これからも素材、設計、質感、そして使用体験に妥協せず、フィールドで信頼できるギアを作り続けていきます。
MAG JACKET FOR KRISS VECTOR。
この新しい黒が、あなたのKRISS VECTORをさらに強く、さらに美しく彩る装備となれば幸いです。
MAG JACKET FOR KRISS VECTOR
2026.07.13(MON) 20:00~ DROP
MAG JACKET FOR KRISS VECTOR
2026.07.13(MON) 20:00~ DROP

